2015年、Googleは持株会社 Alphabetのもとで組織を再編し、新たな CEOを迎えました。創業者は議決権を保持したまま経営の第一線を退き、Googleの行動規範からは「Don’t be evil」の文言が消えていきます。
Alphabetの設立
2015年8月、Googleは持株会社 Alphabetを設立しました。Google自体は Alphabetの子会社となり、自動運転の Waymoや生命科学の Verilyといった事業は、Alphabet直下の独立企業として分離されました。
この再編はラリー・ペイジが主導したもので、創業者が技術に没頭するために設計した退場の仕組みでした。
Alphabet設立と同日、サンダー・ピチャイが Google CEOに就任します。ピチャイはマネジメントコンサルタントを経て、2004年に Googleに入社しています。インド工科大学カラグプル校で冶金工学を、スタンフォード大学で材料科学の修士号を、ウォートン校で MBAを取得していますが、ソフトウェアエンジニアリングや研究の職歴はなく、プロダクトマネジメントとビジネス戦略のキャリアです。
ピチャイが最初に担当した Google Toolbarは、他社ブラウザ上で Googleをデフォルト検索エンジンとして定着させると同時に、閲覧行動を収集し広告ターゲティングに活用する製品でした。2008年には Chromeの開発を主導し、2013年に Android部門を引き継ぎ、2014年にはプロダクトチーフとして全製品を統括しています。Googleでのキャリアは一貫してプロダクトマネジメントであり、CEO就任時点で検索、広告、Chrome、Android、Mapsを含む主要製品群すべてを管掌していました。
検索の変質
ピチャイの CEO就任後、Google検索ではアルゴリズムの不透明化と検索結果ページの変容が進行しました。c
アルゴリズムの不透明化
2015年、Googleは RankBrainを検索アルゴリズムに導入しました。RankBrainは機械学習を用いてクエリの意味を解釈するシステムで、Googleはこれを「3番目に重要なランキング要因」と位置づけています。さらに、2016年3月、Googleは PageRankスコアの外部公開を停止しました。
PageRankはリンク構造という外部から検証可能な指標に基づき、Toolbar上で 0から 10の数値として表示していました。サイト運営者にとって自サイトの評価を把握するほぼ唯一の公式指標でしたが、これで自分のサイトの順位付けの理由が見えなくなりました。
同じ2016年には、品質評価の「パンダ」とスパム対策の「ペンギン」がコアアルゴリズムに統合され、個別のアップデートとしての可視性も失われています。
2018年8月には Medic Updateと呼ばれるコアアルゴリズムの大規模更新が行われました。この更新により、E-A-T(専門性・権威性・信頼性)と呼ばれる評価基準の影響が顕在化し、特に医療・金融関連のサイトで大規模な順位変動が発生しました。
E-A-T自体は2014年に Googleの品質評価ガイドラインに導入されていましたが、どのように適用されているかのロジックは非公開のままです。2019年には BERT(AIの一種)が導入され、自然言語処理の機械学習モデルがクエリの約10%に影響を与えるようになりました。
2015年から2019年の 4年間で、Googleのランキングシステムはルールベースの仕組みから、複数の機械学習モデルが重層的に作用する構造へと変化しました。サイト運営者にとって、検索順位の変動は予測も理解も困難なものになっていきます。
検索結果ページの変容
2016年2月、Googleはデスクトップ検索結果の右側に表示されていた広告を全廃し、上部の広告枠を最大4つに拡大しました。ピチャイの CEO就任から約半年後のことです。
右側広告は 2000年の AdWords開始以来の標準形式でしたが、この変更により、スクロールせずに見える領域がすべて広告で占められるケースが生じるようになります。広告に付される「Ad」ラベルも段階的に小さくなり、自然検索結果との視覚的な区別は薄れていきました。
同時期に Googleは、ユーザーが求める情報により早くアクセスできるようにするという名目で、検索結果ページ上に新たな機能を拡大していきます。
強調スニペット(Featured Snippet)は 2014年に導入され、2015年から2019年にかけて表示頻度が増加しました。これは、外部の Webサイトの本文からコンテンツを抽出し、検索結果の最上部(ポジションゼロ)に直接表示する仕組みです。従来の検索結果がタイトル・URL・メタディスクリプション(サイト運営者が提供する説明文)で構成されていたのに対し、強調スニペットでは Googleがページ本文の中から表示する箇所を選んで抽出しています。ソースサイトへのリンクは含まれており、採用されたサイトの CTR(検索結果が表示された際にユーザーが実際にクリックする割合)が通常の 1位より高くなるケースも報告されていますが、単純な事実確認型のクエリでは、ユーザーがスニペットの情報だけで満足しクリックしないケースも存在しました。
この仕組みは導入当初から著作権の問題を引き起こしています。出版社側は、Googleがウェブサイトのコンテンツを無断で検索結果に表示しているとして反発し、2020年にはフランスが EU著作権指令に基づき、Googleにスニペット表示に対する出版社への支払いを命じました。しかし、出版社が自衛手段としてスニペット表示を拒否(nosnippetタグ)した場合、トラフィックが大幅に減少することが Googleの内部文書で明らかになっています。コンテンツの抽出を受け入れるか、検索での可視性を失うか。出版社はどちらを選んでも不利な構造に置かれていました。
強調スニペットに加え、Knowledge Panel(Googleが集約した情報パネル)や People Also Ask(関連する質問の一覧)も同時期に大幅に拡張されています。これらの SERP機能は、いずれも Googleの検索結果ページ上で情報を直接提供するものです。ユーザーは外部サイトに移動しなくても回答を得られる場面が増え、検索結果ページに滞留する時間が長くなりました。
創業者の退任
Alphabet設立に伴い、持株会社の行動規範には「Do the right thing」(正しいことをしよう)という新たなスローガンが掲げられました。この時点では「Don’t be evil」は、 Google自体の行動規範にまだ残されていましたが、2018年 4月から 5月にかけて、Googleはこの文言を自社の行動規範からも削除しています。
2019年12月、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは経営の第一線から退きました。ピチャイは Google CEOに加えて Alphabet CEOを兼任する形となり、Alphabet傘下の全事業を統括する立場に就いています。
ペイジとブリンが Alphabetの支配権を手放したわけではありません。2人は取締役会に残り、双重株式構造により議決権の過半数を保持し続けています。CEOの解任を含むあらゆる重要議案を単独で可決も否決もできる権限は、日常の経営から離れた後も変わっていません。検索の変質が進行する間、創業者はこの権限を行使しませんでした。

