Google検索の結果が広告で埋まり、AIが求めていない「答え」を返し、知りたい情報にたどり着きにくくなったと感じているユーザーは少なくありません。かつて検索の代名詞だった「ググる」という言葉も、実際の検索体験とは乖離しつつあります。
こうした変化は個別の機能変更ではなく、プラットフォームが段階的に劣化する構造的プロセスです。米国のテクノロジー批評家コリー・ドクトロウ氏は、この現象を「エンシット化(enshittification)」と名付けました。
エンシット化とは何か
ドクトロウ氏は、エンシット化のプロセスを3つの段階に分けて説明しています。
エンシット化の核心は、価値の配分先が「ユーザー→広告主→プラットフォーム自身」へと段階的に移動する点にあります。各段階の移行は、個々の経営判断というよりも、上場企業としての成長圧力と市場支配力が組み合わさることで構造的に進行すると考えられています。
Googleがエンシット化する土壌
上場企業としての成長圧力
Googleは2004年に株式を公開し、ナスダック市場に上場しました。非上場時代は創業者の裁量で長期的な投資や実験的なプロジェクトを優先できましたが、上場後は株主への説明責任が伴い、株価の維持・上昇を優先した経営判断が求められるようになります。
ペイジ時代の構造
ピチャイへの権限移行
上場と収益構造の確立
Googleは2004年に株式を公開し、ナスダック市場に上場しました。これにより、非上場企業としての独立性を保っていた経営体制から、株主に対する説明責任を伴う資本市場の論理に移行することになります。
上場以降、Googleの主な収益源は検索連動型広告に集約されていきます。検索結果に連動して広告を表示する AdWords(現 Google Ads)と、外部サイトに広告を配信する AdSenseの2つの広告プラットフォームを軸に、収益構造が強化されます。
その結果、Googleは検索品質の維持と同時に、広告効果の最大化という2つの目標を両立させる必要に迫られるようになりました。
「ユーザーの利益を最優先する」という理念は維持されていましたが、上場によって発生した収益責任や広告主への配慮は、企業活動の中で次第に重みを増していきます。検索結果の構成や表示方法においても、収益性との整合を求める構造が形成され始めた転換点です。
Alphabet設立と再編
Googleは2015年8月、持株会社である Alphabet Inc.を設立し、企業全体の組織構造を再編します。従来の Google Inc.は Alphabet傘下の1部門となり、検索・広告・YouTube・Androidなどの中核事業は Googleブランドに集約され、新興技術や実験的プロジェクトは別会社として分離されることになります。
この再編の目的は、自動運転や生命科学といった赤字部門を中核事業と切り離し、広告収益を基盤とする Google部門の業績評価を安定させ、投資家に対してより透明性の高い財務報告を可能にする点にありました。
創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は Alphabetの経営に移行し、Googleの CEOにはサンダー・ピチャイ氏が就任しました。この再編により、創業者が直接関与しない形で Googleの意思決定構造が変化し始めます。
ピチャイの Alphabet CEO就任
Googleの行動規範の文頭に記載されていた「Don’t be evil」は、2018年4月中旬の改訂で文末に移動し、その後さらに非公式な扱いになり、Alphabetの企業統治体制と方向性の変化を反映する動きとして注目されました。
そして 2019年12月、サンダー・ピチャイ氏が Alphabetの CEOに就任し、創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は、経営の第一線から姿を消すことになります。
創業者の退任について、公式ブログでは「企業が成熟した今、日常的な経営からは一歩退き、長期的視点から支援する立場に移行する」と説明されており、技術開発や構造改革の初期段階を終えたことが理由とされています。
一方、ピチャイ氏は GoogleのCEOとして、検索・広告・Androidといった中核事業の拡大と効率化を担っており、部門間の調整や事業拡張において安定した実績があったことから、Alphabet全体の経営を統合的に担う立場に就任することになります。
ピチャイ氏は、工学系の学位を持ちながらも、研究者としての活動ではなく、プロダクトマネージャーや事業部門の責任者としてキャリアを築いており、技術畑の創業者とは異なる立場から Googleの成長を支えてきた人物です。
この人事によって、Alphabetは創業者主導の企業から、実務経験と組織運営を重視した経営体制へと移行し、以後は収益構造の最適化と AI分野への集中投資が経営戦略の軸として強化されていきます。
検索の構造変化と“探索型”から“誘導型”への転換
従来の Google検索は、キーワード入力に応じて関連するWebページをリスト形式で提示する「探索型」の情報取得モデルを採用していました。ユーザーは検索結果の中から複数の選択肢を比較・検討し、必要に応じて検索語を修正しながら目的の情報にたどり着くというプロセスです。
しかし、2019年に導入された自然言語処理モデル「BERT」、2021年の MUM(Multitask Unified Model)、2023年以降に実装が進んだ AIオーバービュー機能などにより、検索の構造は大きく変化しています。
これらの技術は、ユーザーの検索意図を AIが推定し、直接的な回答や要約を検索結果の上部に表示する仕組みで、ユーザーがページを訪れる前に情報を取得できる構造になっています。
Googleの検索エンジンは、「情報への経路」ではなく「答えの出力装置」へと変化し、検索体験は能動的な探索から、AIが提示する「正解らしきもの」を受け取る受動的な構造へと移行しています。
さらに、検索結果の上位に表示されるWebページの多くはスポンサーサイトで占められており、ユーザーが主体的に情報を選択する自由度は大きく制限されつつあります。
いま、便利さの裏で「誰のための検索か」が問われています。


